■ 家族会主催 第6回講演会 報告
2004年7月23日 練馬区石神井庁舎5階第1会議室
テーマ:精神病概論〜差別・偏見を乗り越える〜
講師:鷲山 拓男医師
連日の猛暑が続く中、第6回練馬家族会主催の講演会が開催されました。真夏の日差しに負けたのか、35名ほどの少数精鋭の参加者ではありましたが、充実した講義内容となりました。
●開会の挨拶
司会の渡邉副会長から開会の言葉の後、橋本会長から、今年は、地域でのつながりを確認する意味で、原点に立ち返り、地元で活躍する精神科医師に講演を依頼した、という趣旨の挨拶がありました。
●鷲山医師プロフィール
司会の渡邉より紹介されました。地域精神保健に10数年関わり、精神障害についての啓蒙・啓発活動を、おもに区内を中心に行っています。また、2004年4月練馬駅南口前に「とよたま こころの診療所」を開院されました。
以上、挨拶と紹介の後、いよいよ鷲山医師の登場となりました。
●精神障害をめぐる近代社会の歴史
なぜ歴史か?という問いから講義が始まりました。
精神病は病も困難を極めるが、それ以上に社会的差別が著しく大きく、また、周囲からの無理解や社会的な排除によって、病気を受け入れられない「本人」の苦痛を考える必要があります。その痛みは、精神分裂病から統合失調症と病名が変わっても(かつて、らい病からハンセン病と病名が変更になりましたが)、痛みは癒えることはありません。なぜなら、よくわからない病名だということで、一般人の感覚から離れてしまうからです。また、欠格条項という存在も、直接的な影響を与えているということです。
社会が、人権剥奪の歴史の過ちを認めることは、差別・偏見・誤解を収束させる1つの方法でもあると感じました。
●病気を理解すること
では、そのために何が必要なのでしょうか。先ず、心の病気を家族が理解することだと指摘がありました。
当事者は、薬を飲むことで症状が改善されるのは分かっているが、飲むことで病気だということを認めてしまうのはイヤだという心の葛藤があるそうです。そして、今の状況を家族に八つ当たりすることで、家族が受ける心理的ダメージ等々、列挙すればキリがない苦痛があるということです。しかし、家族側で、当事者がこの病気を受け入れられないのは当然だと認識することや、また、八つ当たり的な行動は「病気がさせているんだ」「病気が苦しいだ」と考えることで、気持ちが楽になると仰いました。
理解はできても、当事者を受容できない苦しみや葛藤も家族にはあります。医師=治療する側、家族=お世話をお願いする側、という立場の違いを感じています。
●精神医療の歴史
当事者が発病した年代は、多くの場合、若い世代です。そして、その後の生活に制約ができてしまいます。かつて、英国の場合は産業革命以前、日本の場合は富国強兵以前、精神病者は地域共同体の中で穏やかに生きてきました。しかし、利益追求の社会が出現したことで、置き去りにされる人→精神障害者やなんらかの障害を持つ人が、差別・偏見の対象となっていく原因を話されました。
講演では、日本の精神医療の歴史の中で、特筆すべき事例を挙げられました。
1948年 優性保護法の制定
遺伝性精神病や身体疾患者の不妊や中絶を正当化した。
これは1960年代まで公然と行われ、ナチスの優性思想から影響を受けたものと思われる。
1958年 精神科特例の制定
精神科医は少なくて良い。すなわち閉じ込めておくだけでいいのだという法律。その一方で、アメリカでは脱施設化運動、反精神医学運動が台頭する。
1970年代 地域精神医療の動きが出てくる
1984年 宇都宮病院事件発覚
1987年 精神保健法制定
これにより、任意入院制度ができた。そして、2001年以降、精神医療は悪い方向に変わりつつあるようだ。
2001年5月23日 らい予防法国家賠償請求事件で国が控訴を断念
ハンセン病患者が被ってきた差別・偏見・誤解の歴史を認めた小泉首相を、評論家達はヒーローとして褒め称える。
2001年6月8日 池田小学校事件
当初、犯人は精神分裂病と報道され、らい予防法国賠訴訟で活躍したヒーローや評論家たちは、手のひらを返したように、「分裂病者すべてを隔離する法律を作るべきだ」「危ない奴は閉じ込めろ」と、ヒステリックに叫ぶ。(鷲山医師は、テレビは観るな、新聞は読むなと患者に話し続けた、というエピソードを紹介されました。)一週間後、犯人は妄想性人格障害という正しい病名が報道される。人格障害者には100%刑事責任があるが、今なお、池田小学校事件は、くすぶり続けている。
このような社会的背景があるために、21世紀になっても受け入れ難い病気なのだと結ばれました。
講演会は時間をオーバーして、16時30分に終了しました。その後、事務局担当の高田より、家族会入会のお誘いをさせていただきましたところ、当日、1名の新入会員がありました。最後に、石神井保健相談所の中地保健師より、各保健相談所で行われている「家族教室」の紹介がありました。
●講演会を終えて
池田小学校事件と、らい予防法国賠訴訟を対比されながら講義されたこと、特にマスコミのあり方を問われたことは、差別・偏見・誤解が助長される原因を垣間見たような気がします。そして、逆にそれをうまく利用することも可能だという希望もいただきました。
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