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NPO法人 練馬家族会 :: 精神研 都民講座 「分子生物学から見た統合失調症」 参加レポート
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■ 精神研 都民講座 「分子生物学から見た統合失調症」 参加レポート

2004年12月21日14:00〜15:30
会場:千駄ヶ谷 津田ホール
講師:糸川昌成氏

Ⅰ.はじめに

報告の前に、まず、なぜ遺伝子研究なのかを、講師の書かれた文(「精神研ニュース」第288号 H14.12.10)を引用して説明する。統合失調症の原因解明には3つの困難があるという。
1つは、「疾患に特異的な生物学的特徴」が捉えられていないことである。生物学的特徴とは、例えば糖尿病においては「尿が甘い」というようなことである。この「血糖が高いという生物学的特徴」を把握していれば、「その責任部位を探り、モデル動物を作り、その結果を病める人々へ還元する」という、3つの閉じたステップが完成するが、統合失調症では、その『糖』が見つからない状態である。
2つ目は、「単一の疾患である保証がない点」である。統合失調症の臨床症状が、妄想や幻聴として似通って現れるため、原因の異なった脳機能障害によるものであっても、1つの病気のように見えている可能性が考えられる。
3つ目は、「おそらくこの疾患が人間固有の病気である」ことである。妄想、幻覚、思考の貧困等の精神現象は他の動物で確認することが難しく、統合失調症の原因解明において、糖尿病研究と同じようなステップを踏めないのである。
統合失調症は「弱い効果の複数の遺伝子に環境要因が加わった相互作用の結果である」と言われている。それゆえ、ヒトそのものの遺伝子を研究する意義がある。

Ⅱ.講演内容

講演内容の概要は、以下の通り。
1.統合失調症の遺伝子研究
統合失調症における遺伝的要因の関与は双生児の研究で指摘されていることだが(一卵性双生児の発症率43%、二卵性双生児20%)、一卵性双生児の遺伝子は100%同じものなのに発症率43%ではメンデルの遺伝法則に合わない。つまり、統合失調症は強い効果の単一遺伝子疾患(ハンチントン病や進行性筋ジストロフィーなどのいわゆる遺伝病)ではなく、弱い効果の遺伝子による複雑遺伝子疾患である。これは糖尿病や高血圧のような「ありふれた病気」であると言える。なぜなら、ハンチントン病などは100万人に1人の発症率だが、統合失調症のそれは100人に1人だからである。また、家系を用いて疾患の原因となる遺伝子の場所を染色体上で見つけだす研究(連鎖研究)において、統合失調症で連鎖が確認された部位は12ヶ所しかない。
弱い効果の遺伝子の研究には、目標となる遺伝子(候補遺伝子)を選ぶが、統合失調症においてはドーパミン、セロトニンと共に注目されている興奮性アミノ酸である、グルタミン酸の受容体がこれにあたる。
ある麻酔薬には、グルタミン酸受容体の働きを悪くする作用があるが、これを投与すると統合失調症と似た陰性症状を起こすことから、統合失調症において、「グルタミン酸受容体機能低下仮説」が指摘されている。
グルタミン酸受容体の1つである特定の遺伝子は、思春期以降に発現するのだが、統合失調症の発病が思春期以降に多いので、これが遺伝的個人差に関係しているのではないかと注目された。その結果、この遺伝子が解析され、統合失調症患者は、ある特定のパターンを多く持っているということが分かった。また、このパターンを持つ人の発症率は、普通の約2倍になる。
前述のパターンがグルタミン酸受容体発現を抑制することは試験管でも確認され、死後の脳でも同様であることが分かっている。つまり、グルタミン酸受容体内部で、ある特定のパターンが多いほど、グルタミン酸受容体の働きが悪く、陰性症状が強いといえる。これは、グルタミン酸受容体機能低下仮説を裏付ける。

2.抗精神病薬の未来
① 器質変化の予防の可能性
統合失調症にかかると脳がしぼんでくるのではないかという、脳の器質の変化が問題になっている。服薬をしている人の脳と再発を繰返す人の脳を比べたところ、前者は健常者の脳と同じで、後者は脳質の拡大(脳の萎縮)が認められた。薬を飲めば脳の萎縮進行を止められるのではないかといわれている。
② オーダーメイド医療の可能性
現在、同じ病名・処方でも、個人によって薬の効果が異なる。それは、病気を起こす原因となる遺伝子が異なるからであり、薬剤の作用、代謝部位に個人差があるためである。
これらの個人差は、症状の原因となるセロトニンやドーパミンといった脳内物質の抑制に強弱が出て、薬の効き方に差異をもたらす。つまり、薬効は原因となる遺伝子の差か、受容体の個人差に基づく可能性があるということである。従って、遺伝子レベルの研究が進み、原因となるそれぞれの遺伝子が解明されれば、将来はオーダーメイド医療になるであろう。
講演後の質問に、オッズ比1.98(発症確率)では「有意に頻度が高い」とはいえないのではないか?との指摘があった。先生はそれをある程度認めた上で、より多くの家族サンプルを集め、より精度の高い分析をするための、家族に対しての研究協力の要請があった。
以上が講演の概略である。

Ⅲ.私の感想
今回の講演によって、対処療法からの治癒への可能性に希望を持てるのではないかと思った。10年以上前から始められた統合失調症の遺伝子研究は、現在12個の染色体座位がつきとめられているという。これからもより多くのことが明らかにされそうだ。
弱い効果の遺伝子による複合遺伝子疾患であるとされる、統合失調症の原因となる遺伝子が突き止められたら、薬も現在のような対処療法ではなく、個人に合わせた効果の素早い処方が可能となる。「匙加減」でしか薬の効用が計れない医療から開放されたら、不適切な薬による副作用も軽減されうる。また、この解明の遅れた病に完全治癒への道も開かれることだろう。統合失調症では環境要因の関与も大きく、原因となる複数の遺伝子との相互作用の解明に時間はかかるかもしれないが、いつかは病気の予防さえも可能となるかもしれない。

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